重要な心臓が止まる悲劇−
心臓突然死
心室細動とは?
心室細動を停止するには?
大切な「脳」を守るために

沖重 薫

横浜市立みなと赤十字病院
心臓病センター長
<専門>
臨床不整脈、心臓性突然死、
特発性心筋症、
カテーテル・アブレーション手術

横浜市立みなと赤十字病院

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神奈川県横浜市中区新山下3丁目12番1号
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 日本循環器学会の報告によりますと、我が国の病院外での突然死例は年間に約10万人で、そのうち約6万人弱が心臓性突然死とされています。

 心臓は血液を全身くまなく循環させる、生命を維持する最も重要な役割を担っています。心臓性突然死とは、いろいろな原因で心臓が突然、そして永久に動きを止めてしまう病態です。

 原因となる疾患には先天的な病気もあれば、後天的な病気もあります。先天性の場合は、小児にも心臓突然死が起こります。スポーツ選手などの鍛えられた健康な心臓でも、悪い因子が働いたり加わったりすると心臓停止が起こり得ます。日頃から健康の為に運動したり体を鍛えたりしていても、心臓性突然死の危険性はあるのです。

 心臓性突然死の90%以上は、“心室細動”という最も重篤な不整脈が突然起こることが原因です。心室細動が発症すると、ほんの数秒間で心臓から有効な血液の拍出がなくなってしまいます。全身に絶えず送られるべき血液が突然途絶えてしまいます。

日本循環器学会 教育研修委員会調査

 心室細動は医学的に、心停止(心臓から有効な血液の排出がない状態)に分類されます。つまり、心電図上何らかの活動が見られているとしても、心臓から血液が十分送り出されていない状況を“心停止”と定義します。心室細動はこの状態にあたります。

 心室細動が起きると、心臓の下半分である心室がいびつで細かく速い運動を繰り返します。腕や足の筋肉に疲労が蓄積したとき、筋肉が部分的にピクピク動く経験をした方は多いと思いますが、この筋肉が細かく痙攣するような動きは心室細動の動きと非常によく似ています。心臓から血液を送り出す役割の心室が、その機能を失ってしまうことで心停止に陥ります。

 心室細動の治療法は「電気ショック治療」の一つしかありません。心臓マッサージ(心拍出量維持)や人工呼吸(血液への酸素補給)はあくまで補助的な手段です。それだけで心室細動は停止することはできません。肝心の心臓から有効な血液の拍出がなければ意味がありませんので、直流電流を心臓に通電する電気ショック治療を施して心室細動を止め、全身への円滑な血液循環を再開させる必要があります。

 電気ショックにより心室細動を停止させるには、ある程度の大きさのエネルギーを使用しなければなりません。また心室細動を治療する場合、一回の電気ショックで成功することもありますが、なかなか成功しないこともあります。とくに体格が大きい患者や肥満傾向の患者は、人体組織自体の有する「抵抗値」が高いため、より高いエネルギーが必要です。実際に心臓手術や救急医療治療では、電気ショック治療機器を少なくとも2台以上は準備しております。

 人間のあらゆる組織の中で、最も大切ながら最も脆い組織が「」です。この脳を救うためにも、心室細動を可及的速やかに停止させ、血液循環を回復しなくてはなりません。

 また最近、「低体温療法」という、体温を数時間にわたり通常よりも1〜3℃ほど下げて、脳細胞を保護する治療が、救急救命において積極的に行われております。蘇生術による心臓機能の回復が遅く心停止状態が長くても、低体温療法を行うと期待以上に脳機能が回復するケースが数多くあります。救急臨床の現場では、患者の「社会復帰」を最終目標に心臓性突然死治療に日々あたっております。


著書「突然死の話」には、更に詳しい内容が、わかりやすく執筆されております。
持ち運びに便利な文庫本で、書店の棚に並んでおります。
是非ご一読ください。

突然死の話
あなたの心臓に潜む危機
(中公新書)
沖重 薫著


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